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2009年11月19日 (木)

京都北山と『こころ』

 何の関連もないが、朝もハヨから京都北山、桟敷ヶ岳へ。京都北山は好きな山域のひとつだが、桟敷は初めてであった。

 京都北山というのはイメージ的に言えば、植林に覆われていそうなのだが、意外と上がってしまえば豊かな自然林が残っていて、奈良・三重あたりの延々と続く植林ほど、苦にならない。

Img_2399s  ベストコンディションではなかったが、意外や雲海がいい感じで出ていて、なかなかのものであった。

 今日の車中の共は、漱石の『こころ』である。中学生のころに教科書に出ていた。いや、高校だったか。通読はしていない。

 『氷点』は昨日、完読した。喫茶店で、ひとり涙をこぼした。まあ、内容を知らずに「感動作」とだけ知っていて読もうと思ったので、それもさもありなん、である。しかし、一般的な感動とはもしかしたら違うのかもしれない。

 前回、「縁」と書いたが、やはり、「縁」を感じた。同じ感覚を持つ人間がいた、ということで、大いに救われた。

 ざっくり言うと、女の子を殺した殺人犯の娘が、被害者宅に引き取られ、自殺するまで(未遂?)を、夫婦、兄弟、周辺の人々の愛憎や苦しみをつぶさに描写しながら、最終段階へ至る。娘は私の言葉でいうなれば「無垢なる魂」である。その「無垢なる魂」が、自分が何者であるかに気づいたとき、その罪を背負って、死を選ぶ。

 著者の三浦綾子さんはキリスト者であろうと思って読んだが、やはりそうであった。「原罪」というものの存在が色濃く感じられたからだ。20年ほど前、教会に通う先輩に連れられて、夜通し牧師さんと議論したことがあったので、なんとなくその思想に思い当たったのである。

 この作品は三浦さんの処女作であり、発表当時はベストセラーであったようだ。

 思うに。

 人間とは浅はかである。今、同様の「無垢なる魂」があったとすれば、その魂は、生きる場所がない。小説と同じように。ベストセラーということは多くの人が読んだはずである。私は、すべての人物に自分を当てはめながら読む。自分の汚らわしさを意識して。それを直視するのを恐れながら読む。たぶん、書いている三浦さんもそうだったのではないだろうか。自分の「負」の部分をえぐり出しながら書いたに違いない。「無垢なる魂」が救われることを信じて。

 人々にとっては単なるフィクションだったのだろうか?

 惜しむらくは、三浦さんが、最後に、娘(陽子)が実は殺人犯の子ではなかったことにしてしまったことだ。そのおかげで、人間のおろかさは浮き彫りにされたが、おろかな人間たちは救われてしまった。読者にとっての話である。甘さが出てしまったような気がする。三浦さんの優しさであろう。「殺人犯の子であろうとなかろうと」という言葉をしきりに出すものの、殺人犯の子ではなかったことで、登場人物たちが陽子を受け入れられる理由ができてしまう。しかし、僕としては、自分の子を殺した男の娘とわかりながら、彼らが陽子を、つまり「無垢なる魂」を追い詰め、死へと追いやったという事実をどう受け止めていくのかを見届けたかった(ちなみに陽子は、追い詰められたとは受け取っていない。自分に罪があったからこそそうなったのだと、自分で自分を追い詰める)。

 漱石の『こころ』は、「先生」がじぶんの若いころの罪を背負って自らの命を絶つ小説だ。これは、縁というよりは、同じ終着点を選んだ人間の違いを見比べてみたいと思ったからだ。『氷点』の陽子は自分自身では何の罪も犯していない。しかし、自分の存在に罪を感じて死を選んだ。その違いは大きいように思う。

 本当は『氷点』の続編があるようなので、購入しようと本屋に行ったがなかったので、代替品よろしく『こころ』を手に取った。

「無垢なる魂」を受け入れられる時代がいつか来るのだろうか?

 残念ながら、来ない。そう漠然と感じている。ナザレのイエスが生まれてこのかた、2000年以上経った今も、人間の命は欲望の上に成り立っている。肯定的に見れば、それが人間に生きる活力を与える。否定的に見れば、それゆえ、人間は苦しみ続ける。

 自分の存在とは何か。それを突き詰めようとすれば、もう人間たちのなかで生きていくことはできない。「無垢なる魂」が存在できる隙間が、人間社会にはない。

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