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2011年8月30日 (火)

ある滑落事故

 何度も書こう書こうと思いつつ、まったく書いてません。すみません。忘れてしまった方もおいででしょうが、せっかくなので書きます。

Img_0785s  先日、金曜日に松本へ行った。ええ、あの松本です。信州の。で、アルプスには登らず、3時間ほど滞在して帰ってきた。仕事仲間のMさん夫妻と一緒で、その3時間で何をしたかというと、まず、そばを食った。で、見舞いに行った。

 同じく仕事仲間のT氏が松本にある信州大学付属病院に入院しているからである。

 8月1日のことだった。T氏は単独で、日本海側の親不知から、後立山を縦走し、大天井、槍と越えて前穂高までやってきた。9日目のことである。あとは重太郎新道を岳沢経由で下山すると、長い縦走が完結するところであった。

 事故はその重太郎新道で起こったらしい。彼の言によれば、その滑落は防ぎようがなかったということらしい。いや、防ごうと思えば防げたのだろうが、彼としてはどうしようもなかった、というのが本当のところだろう。

 かいつまんで言えば、その下山路で、彼は足を一歩一歩踏み出していたが、そのうちのある一歩を踏み出したところで、その下には何もなかったということになる。足を滑らせたとか、浮石が崩れたとか、そういうものではなかったと言うのだ。そして何の抵抗もなくただ、落ちた。

 記憶によれば、何に触れることもなく20m、まっすぐに落ち、草つきの斜面に着地し、滑っていった。夏山だというのに、天候も悪く、目撃者はいなかったようだ。

 断っておくが、彼はクライマーであり、登山者としてはベテランといっていいし、経験も豊かだ。その知らせをはじめて聞いたとき、死なずにすんでよかったと、ホッとしたというのが正直な感想だ。なにせ、話では前穂高から100m落ちたと聞いていた。ばらばらになってもおかしくない。実際は20m落下し、運よく斜面に足からランディングして滑り落ちたのだった。しかし、これは紛れもなく運がよかった。脊椎、足、肋骨、指と骨折し、内臓からも出血があったようだが、頭を打つことが一切なかった。首から上が無事だったことが大変な幸運だった。

 ここからの彼の行動が優れている。止まったのは不安定な斜面で、ヘリコプターの救助も難しいだろうと判断し、まずザックを放り投げ、今度は自分もそこまでずり落ちた。時々スウィッチを切って電源を温存していた携帯で、まず110番、救助を求めた。ここで役に立ったのは、GPSである。GPSを携帯していたことにより、正確な現在地を告げることができたのだ。警察は、山岳保険の加入の有無を確認し、ヘリを飛ばせた。事故後、1時間後には彼は機上の人となることができ、1時間30分後には病院に搬送されていた。

 大前提として、運がよかった、ということには違いない。彼が認めるかどうかは知らないが、下山時の滑落、しかも、大縦走の、オーラスという点で、多くの山岳事故の典型のような事例といえるだろう。気の緩みがなかったとはいえない。

 しかし、事故後の対処という点では、示唆に富んでいる。まず、大縦走の行程の中で、携帯電話の電源を温存したこと。そして、GPSを活用したことである。20年前であったなら、彼の事故が悲劇に変わっていた可能性は否めない。しかし、これら文明の利器を、今後、あえて万一の備えとして携帯しておくことは、その運命を大きく左右することになる、ということを広く認識しておいて損はないだろう。

 このブログでも何度も書いているが、山は楽しいし、すばらしい。しかし、その隣り合わせに「死」がある。楽しいはずの山で死んではいけない。

 そのことだけは肝に銘じて欲しい。

  Img_0787sT氏が関西へ帰ってくるのはまだ先のことになりそうだ。とにかく、元気でよかった。

 しかし、一度松本でゆっくりしたいものだなあ。

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